最近いろんな職場、それもいわゆるゲンバと呼ばれる、つい最近まで男の聖域だった現場で黙々と働く若い女性を見かけるようになりました。彼女たちの背中はまるで「もう男性(あなた)たちに任せてはおけない」といわんがばかりです。

 私の研究室の卒業生でも数年前、卒業と同時に造園会社を立ち上げた女子学生二人組がいました。ぱっと見はごく普通のどちらかといえば小柄で可愛らしいタイプの女子学生で、普段着の彼女達からは想像もつかぬ職業/人生の決断です。
 きっかけは造園の授業でのある非常勤講師との出会いでした。その先生は学究肌の石工職人で日本庭園にも造詣が深く、当時70代後半でしたが素手であれよあれよという間に木にのぼってしまう造園の達人でもあります。大学で使うテキストは全て几帳面に製本した手作りで、そうした実直な手触り感覚が彼女達の心をとらえたようです。

 ものつくり大学は2001年に開学しました。大げさにいえば21世紀、考古学的にいえば新たな千年紀とともに開学した「ものづくり」をテーマとする大学です。しかしながらその名称は「ものつくり」と「つ」に濁点がありません。そこには梅原猛総長の縄文の世から綿々と育まれて来た日本人のものづくりの精神に濁りがないという建学の理念が埋め込まれています。
 さらにその英語名 Institute Of Technologists は、あの「もしドラ」の故ピーター.F.ドラッカー先生の命名です。マサチューセッツ工科大学M.I.T.や東京工業大学T.I.T. の末尾のT:Technology/技術 ではなく、Technologists/技術を具現化しうる人間/技能者 にフォーカスを当てています。

 そのP.F.ドラッカー研究の第一人者である本学名誉教授上田惇生先生のホームページ(http://www.iot.ac.jp/manu/ueda/)に「若い方」へと題し、経営学の巨人P.F.ドラッカーの著作から6編の金言・至言が紹介されています。これから社会に出ようとする若者たちだけでなく、日々仕事で悩む我々にとってもこれほど勇気づけられる優しい言葉はないかもしれません。

 道聴塗説になりますが、その中の一編「成果をあげるのは才能ではなく姿勢と方法」を紹介します。上田先生はドラッカーの著作から以下を引用し、

  『非営利組織の経営』:成果をあげる人とあげない人の差は才能ではない。
  いくつかの習慣的な姿勢と、基礎的な方法を身につけているかどうかの問題であ  
  る。しかし組織というものが最近の発明であるために、人はまだこれらのことに優
  れるに至っていない。

  『経営者の条件』:成果をあげることは一つの習慣である。習慣的な能力の集積で
  ある。習慣的な能力は修得に努めることが必要である。

 「共通点は、成果をあげる能力、つまり、なすべきこと(なしたいこと、つまり自分がやりたいことではなく)を真摯になし遂げる能力を身につけていることだけである。」と解説しています。

 冒頭紹介した女子学生達は、卒業式の前日までボランティアで大学キャンパスの手入れをしていたことをいまでも鮮明に覚えています。今から想うと、彼女達の姿勢には既に経営者としての習慣/資質が培われていたようです。

                   ものつくり大学 建設学科 学科長 八代 克彦